子供の居なかったタバコ屋さん夫婦
子供の居なかったお隣のタバコ屋さん夫婦の事、たまに思い出す。
私達一家が引っ越して来た時、そのご夫婦はおそらく60代か70代。二人でタバコ屋さん兼駄菓子屋さんをやっていた。
「タバコ屋のおばあちゃん」と私達姉妹は呼んでいた。口うるさい人子供嫌いな人であった。物静かな旦那さんはいつも店の奥の居間にいた。(というか、その平屋の家にはそこしか部屋がなかったのかもしれない。)
同じくご近所のおばあちゃん、花の世話が唯一の楽しみで、家の向かいの陽当たりの良い道路脇に鉢植えを置いていた。…が、タバコ屋のおばあちゃんに「公共の場所だからダメ」と文句を言われて、撤去。外に出ることがなくなり、ほどなく亡くなった。
我が家も家の敷地から道路に自家用車がはみ出ている、と通報された事がある。(タイヤは納まっていて、警察も、これくらいでは取り締まれないと帰って行った)
ワンブロック先にある小学校の運動会は、放送が煩い、鉄砲の音が煩い、とクレームを言いにいった。
人の事はよく気がつくが、自分の事は解らないらしく、我が家の敷地内に入ってよく布団を干していた。
母は「あの人は子供がいないからね…他人の状況になってあげられないのよ」と、何かと近所の人に文句を言うトラブルメーカーの事を評していたので、幼子ごころに、「子供がいない人というのは、かたわなんだ。人間としてダメなんだ。」と思っていた。(もしかすると、その、刷り込みが、私にここまで子供への執着をもたらしたのかもしれない。)
でも、どうして、子供嫌いが駄菓子屋をやるのだろう? 昔、タバコ屋と駄菓子屋がセットになっている店はよく見かけたけど、あんな10円20円の客単価で生活の足しになる訳がない。政府から助成金でも出たのだろうか…? 果たして。
タバコ屋のご夫婦も若い頃はあり、子供が欲しかったと思う。
出来なくて、タバコ屋を始める時に、ではせめて近所の子供が集まる場所を作ろうと思ったのかもしれない。おばあちゃんは、私達をどのような思いで見ていたのだろう?
20年後、私はどんな気持ちで近所の子供を眺めるのだろう?まだ、今と同じように切ない気持ちが残っているのだろうか?
タバコ屋のおじいさんは、私が実家を出て、いつの間にか亡くなっており、おばあちゃんは施設に長いこと入っていて、100歳まで生きて亡くなったと聞く。